スーパーアイドル拾いました!
 夕方、ホームの仕事が終わると、岸谷が明日の準備をしていた。


「車で待っていてください」

 岸谷は柚奈に気付くと、にこやかに駐車場へと向かっていった。


「あっ。はい」返

 事をして柚奈も自分の車へと急いで向かった。



 岸谷は、白い買い物袋を二つ下げて、柚奈の待つ車へと歩いてきた。


「野菜は、これからが収穫になるので、よかったらまた持ってきます。それとこれ……」


 岸谷が差し出したもう一つの袋の中には、肉のパックと菓子パンがいくつも入っていた。


「どうしたんですか、これ?」


「まとめ買いすると安くなるって言うもので、衝動買いしちゃって。でも、こんなにいらないから、真君にあげて下さい。食べ盛りだから困らないかなと……」


 衝動買いなんて嘘であり、岸谷は空き時間に慌てて買いに行ってきたのだが、柚奈は気付いていない。


「うわ―。助かります。いつもすみません……」


「いいですよ。貰ってもらえて助かります」


 柚奈は、車の後部座席に荷物を載せると、自分も運転席に乗り込もうとした。


「柚奈さん……」

「はい?」

[あの……]

「何でしょうか?」
 背の高い岸谷を、柚奈はちらっと見上げた。


 岸谷の表情が少し固くなったように思える。


「あの…… 朝言っていたホームの仕事を増やす話ですけど…… もう一つ資格を取ってみてはどうですか? 手当が付くので、少しお給料が上がりますから」


「本当ですか?」
 柚奈は目を輝かせた。


「はい。詳しくはまた……  それと、あまり無理はしないで下さい。」


「そうですよね…… 歳には勝てないですからね……」

 柚奈は腰をさすりながら眉間に皺をよせた。


「い、いえ…… そういう事じゃ……  あの、今度……」


 岸谷が言いかけた時には、柚奈はすでに車に乗ってしまい窓を開けた。


「おりがとうございます。お先に失礼します」


 柚奈は車を発進させてしまった。


 車が遠ざかっていく姿を、岸谷ががっくりと肩を落とし見送っていた事など目に入らなかった。


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