溺愛は突然に…
「…いえ、元気ですよ?ほら、この通り」

なんて言いながら、笑顔をつくって見せる。

それを見た彰人は、ホッとしたかとおもうと、優しい笑みを浮かべた。

貴重なその笑顔にドキッとした楓は顔を赤くした。

「…楓?」

彰人に呼ばれてハッとして、首をふった。

「…彰人さんは、お仕事終わりですか?」
「…んー、まだ、もう少しかかるかな…気を付けて帰れよ」

「…はい。彰人さんは、お仕事頑張ってくださいね」
「…あぁ」

彰人は楓の頭をポンポンとすると、エレベーターに向かってあるきだした。。

エレベーターが来るまで待っていると、なかなか帰る素振りのない楓が気になった。

…しかも、楓はなんだか落ち着かない様子。

その時だった。エレベーターが開いた。それと同時に、陽翔が飛び出してきた。

「…陽翔?」
「…悪い、今日の仕事、明日の朝イチで」

「…ちょっ、おい!陽翔!」

血相変えて行き着いた先は…楓の所

それを見た彰人の胸はぎゅっと苦しくなった。

本当に嬉しそうな陽翔の笑顔。…陽翔は、本気で楓に惹かれているんだろう。

それとは対照的な楓の笑顔。強引な陽翔に、どうしたらいいのかわからないようだった。

「…乗らないんですか?」

エレベーターのボタンを押しながら、中の人が、彰人に声をかけた。

「…ぁ、乗ります、すいません」

もう一度、外に出ていく二人をチラッと見た彰人はなんとも言えないような顔で、エレベーターに乗り込んだ。
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