溺愛は突然に…
「…ごめんなさい、直ぐに消します」

そう言いながら、楓は慌ててカバンから携帯を取り出す。

「…急用だといけないから、出て」
「…でも」

「…ほら、早く」

陽翔に促され、楓はペコッと頭を下げ、それに出た。

「…もしもし?…はい、え?…あ、いけない!すみません、今から直ぐに帰ります…はい、では」

そう言って電話を切った楓焦ったような顔で、陽翔を見た。

「…どうしたの?」
「…話、今度でいいですか?」

「…え?」
「…どうしても今日中にしておかなければいけない仕事が中途半端なままで」

楓の言葉に、陽翔は眉間にシワを寄せた。

バイトの楓に、そんなに難しい仕事をさせてるのは、一体誰だ?と。

「…そんなの、社員にさせるべきだろ?バイトの楓ちゃんが、帰る必要はない」

「…いえ、仕事はすんでるんです」
「…どう言うこと?」

「…この会社、パソコンのセキュリティ強化で、使う人しか、パスワードわからないようにしてますよね?」

楓の言葉に、陽翔はハッとした。

そうだ。例え、バイトであっても、社のパソコンは、一人につき1台、パスワードも個人しか知らないよう通達していた。

「…作った文書を送るのを忘れてたみたいで…それを送るだけなんです。向こうも困ってるみたいなんで、ごめんなさい」

そう言って頭を下げた楓は走り出す。

「…その仕事は、誰に頼まれた?」
「…彰人さんです」

そう言うと、もう、振り返ることはなく、楓は行ってしまった。
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