溺愛は突然に…
「…彰人さん!ごめ、なさい、私」
「…ここまで、どうやって来た?」

「…急いでるだろうと思ってタクシーできました」

オフィスに飛び込んできた楓は、息を切らせながら、そう言った。

「…悪いな、入力だけの仕事なんだけど、送信した書類を間違えて消してて」

「…いいえ、私が出来上がったものを、彰人さんのパソコンに送り忘れてたのがいけないんです」

パソコンをたちあげ、作った文書を、急いで彰人のパソコンに送信した。

「…ぉ、きた。ありがとう助かった」
「…良かったです…ずっと、彰人お仕事されてたんですか?」

時計は午後10時に、なろうとしていた。他の社員はもう全員帰っている。

「…あーうん」
「…私が出来ることならお手伝いしましょうか?」

「…いや、これで最後だから。…後10分もかからないから、送る」
「…いいえ、まだ電車あるので大丈夫で「…ダメ」

言い終わらないうちに、彰人に言われ、楓は困ってしまう。

「…こんな時間に会社にこさせたんだから、送るくらいさせろ」

…会社の位置は、大通りに出るまでに、少しだけ路地裏を歩く。街頭もほぼ無く、彰人は心配なのだ。

「…お願いします」
「…ん」

困ったあげく、送ってもらうことを選んだ楓は、自分のデスクに座って、カバンから勉強道具を取り出すと、勉強を始めた。

…。

「…はぁ、終わった…楓?」

…10分どころか、小一時間かかってしまった仕事。

…勉強していた筈の楓だったが、机に突っ伏して寝てしまっていた。
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