溺愛は突然に…
…次の日から三日間、楓は課題研究の講義のため、バイトはお休み。

陽翔と彰人は小会議室で、昨日のデザイン変更の案を話し合っていた。

「…じゃあ、ここをこうしたらどうですか?」
「…そうだな、その方がしっくりくる。それでいこう」

クライアントの意見を取り入れつつ、ようやくデザインが決定した。

「…それでは、デザイン画作成でき次第、先方に確認してもらいに行ってきます」

「…あぁ、頼む」
「…デスク戻ります」

そう言いながら、テーブルの上のものを片付け立ち上がった彰人を陽翔が呼び止めた。

「…海原」
「…まだ、何か、ありましたか?」

「…いや、仕事じゃなくて」
「…?」

何か言いたげな陽翔に、彰人は何事かと、黙って見据えた。

「…昨日、楓ちゃん、会社に戻っただろ?」
「…えぇ、どうしても昨日のうちにしておかなければならない仕事だったので。それがなにか?」

「…海原お前、楓ちゃんの事どう思ってる?」
「…は?仕事中に何を聞くんですか?」

「…はぐらかすな。好きか、嫌いか言えばいいだけだろ?」

陽翔は真剣な顔で、彰人に言った。

彰人はしばらく黙りこんで、溜め息をついた。

「…海原彰人」
「…好きだといったら?」

女性に全くといっていいほど興味のない彰人が、こうも目をかける女は、楓が初めてだった。

陽翔は、楓に想いを寄せている。もし、彰人が、楓を好きだとしても。



「…何がなんでも譲らない。楓は俺のものにする、それが言いたかった」

陽翔の言葉に、彰人は困ったように笑った。

「…彼女は彼女のものだ。譲るも譲らないもないでしょう?ただひとつ言えるのは、私も心底楓に惚れてます。では、仕事に戻ります」

そう言いきって、彰人は会議室を出ていった。

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