溺愛は突然に…
彰人が会議室を出ていって、陽翔は溜め息をついた。

言葉を濁すこともせず言い切った彰人の顔は、真剣そのもので、楓に対する想いは、本物だとわかってしまった。

この仕事を始めるとき、自分より彰人の方が、社長に向いてると思った。いつも冷静沈着で、周りへの配慮も完璧、それなのに、簡単に陽翔に社長の座を譲る。

どんなに大きな仕事を、先頭きって成し遂げても、自分はサポートしただけだといって、手柄は周りに譲ってしまう彰人。

女の事になれば、尚更だ。

どんなに言い寄られても、流されることもなければ、自分からいこうともしない。

そんな彰人が、楓に関してだけは、全く違った。

自ら手助けをし、助言もする。顔にこそ出さないが、過保護の如く楓を守っているように見えた。

『選ぶのは、楓自身』

確かにその通りだと、陽翔は思った。

それでも、陽翔自身も、引き下がるわけにはいかなかった。

それほどまで、楓への気持ちが大きくなっていたから。

…。

楓が休んで三日目。

社長である陽翔は、最後まで残って仕事をしていると、もう、9時になろうとしているのに、誰かが社長室のドアをノックした。

「…どうぞ?」

陽翔が言うと、静かにドアが開かれた。

「…楓ちゃん、どうしたの?こんな時間に」
「…大学のレポートを出すのに、大事なノートをデスクに置き忘れてたみたいで、取りに来たんですけど、社長がまだ、お仕事されてるみたいだったので、コーヒーを入れてきたんですけど…」

…、お盆の上には、コーヒーと軽食がのせられていた。

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