溺愛は突然に…
…他の女の人たちと一緒の扱いなど、した覚えはないのに。

陽翔は気に入った相手にしか、そんな事はしないし、言わない。

…誰かの入れ知恵か?

そう思うとイラついて、社に戻るなり、他の社員に目もくれず、社長室に楓を連れ込みぎゅっと抱き締めた。

楓の頭はパニックだ。

バイト初日からこんなことされるなんて。

どうしていいかわからず、楓は身を縮め、静かに涙を流す。

そんな、楓の涙を何度も指のはらで、拭う陽翔は、少し戸惑っていた。

この言い様のない気持ちをどう言えば、楓に伝わるのか?

…トントン。

そんな時、社長室のドアがノックされた。…が。

「…今取り込み中だ。後にしてくれ」

陽翔はそう言ったのに、無視してドアは開かれた。

「…取り込み中だと言った筈だ…海原」

入ってきたのは、彰人だった。楓の泣き顔を見るなり、いつも無表情の彰人の顔が怒ったような顔になる。

二人の目の前まで来た彰人は、陽翔に言い放った。

「…楓を困らせることは許しません。例え、社長でも」
「…海原、お前?」

…彰人は、泣き続ける楓を連れ、社長室を出ていった。

彰人の思いがけない行動に、しばし、ドアを見つめていた陽翔はハッとして、ドアを開けた。

オフィスにはもう、彰人の姿も、楓の姿もどこにもなかった。

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