男と女
可那子
『ちょっと、朝日さん、これ、違ってますけど』
眉間にシワを寄せて上から目線で晴夫を追い詰める、可那子。可那子は晴夫が苦手だ。晴夫と同じ部署で25歳の可那子には、晴夫は単なる【オッサン】でしかない。私は絶対こんな人とは結婚しない、常にそう思っている。

可那子は高校を卒業して、今の会社に就職した。まだまだ若いので、言い寄ってくる男は何人かいる。見た目も、それなりに可愛い。少しだけ、性格がキツい事を除けば。
可那子には、3年付き合っている彼、翔太がいる。そろそろ結婚かなあ、なんて思いも無くはない。翔太は2つ上の銀行マン。無理矢理連れて行かれた合コンで知りあい、可那子の一目惚れから始まった。一人暮らしの可那子のアパートに、週末、翔太は現れる。

『美味しい?』
可那子は週末、翔太の為に手料理を振る舞う。
『可那子の料理は上手いよ』
翔太は口一杯にほうばりながら答える。
『毎日作ってあげてイイよ』
可那子は何気に言った。
『・・・・』
翔太は黙って可那子を見る。
可那子も黙って翔太を見る。
暫くの沈黙。不思議な空気。
何故だか、可那子の頭に晴夫の顔が浮かぶ。
(なんでオッサンが出てくんの?!)
晴夫の顔をかき消そうとした時
『俺さ、可那子とは結婚しないよ』
翔太が口を開いた。
『・・ん?あ、え?・・は?』
可那子には何が起きたか分からなかった。今すぐ結婚なんて考えてなかったけど、今のこのタイミングで、あんな事言うつもりはなかったけど、でも、でも、そんなストレートに拒否されちゃうもの?!そんな思いが頭をよぎる。
『・・いや、今すぐとか、そーゆー事じゃなくて、なんて言うか、私達付き合って3年だし、年齢的にも、私には翔太しかいないかなって』
考えがまとまらない可那子の言葉を遮るように翔太が笑う。
『俺、結婚するなら美人って決めてんだ。可那子はブスではないよ。でも、俺が望む美人でもない。』
翔太の言葉に可那子の顔が歪んでくる。
『じゃあ、なんで3年も付き合ってんのかな、私達。』
『そりゃ、一人は寂しいでしょ、お互い。』
満面の笑みを浮かべる翔太に、可那子は笑うしかなかった。

『朝日さん、また、間違ってますよ』
『ああ、ゴメンねえ』
笑う晴夫の顔が翔太に見えた。
(こんなオッサンでも結婚出来たんだから、私に出来ないはずがない)可那子は翔太と別れて新しい恋をする決意をした。晴夫は満面の笑みで可那子を見つめている。
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