ごっこ遊び
しばらくして、タタタタと規律正しい足音が聞こえて、目の前をさっきの女の子が走り抜けていった。
一息ついてから立ち上がり、ゴミ袋に手を伸ばすと宙を掴んでしまった。
「あ」
顔を上げると、柊碧人がゴミ袋を持っていた。
「あ、ごめん。それ、わたしのなんだ」
そう言うと、わたしに顔を向けた。彼は表情も変えずに
「ごめんなさい。ゴミ捨てるの待ってましたよね?」
「ええ……あ、いや、そういうわけでは……全然、大丈夫」
告白を盗み見てしまった後ろめたさに曖昧に答えながら、受け取ろうとしたけど、彼はそれを無視して焼却炉の方に向かって歩いて行った。
正直、声をかけられて驚いた。わたしが一方的に彼の名前を知っているせいもあるけど、あの告白の最中、そんなことを気にする余裕があったなんて思いもしなかったからだ。
そう思うと相手の女の子に対しての告白の返事はきっとノーだったんだろう。好きな人に告白されたら、きっと彼女の後ろの景色なんてかすんで見えるだろう。そんな経験したことないから、あくまでも想像だけれど。
彼は焼却炉の小さな扉を開けると、ゴミを投げてくれた。
「ありがとう」と、大きな声で礼を言う。
柊碧人は振り返ると、ジッとわたしを見つめた。それだけで、何か高尚なことでも考えているのではないかと想像させられる静かな佇まいだった。こういう空気の男の子って、いないな。
見られているだけなのに、引き留められた感覚になるのは、イケメンで話題の男の子だからか。わたしも大概他の女の子と変わらない。
そのまま戻ろうとすると、柊碧人は急に「武山(タケヤマ)先輩」と、呼んだ。
わたしの名前ではないのに、歩みを進めた足が不覚にも一度止まってしまったのは、聞きなれた名字のせいだ。