ごっこ遊び
ごっこご
昨日の夜は、タケちゃんからメールがなかった。
何してたんだろうと思って、なんとなく不安になった。
それからベッドに入り、眠ろうとすると、柊碧人の顔が邪魔をしてなかなか眠りにつけなくて、何度も右や左に寝返りを打っては、唇に触れたキスの感触を思い出した。それから、時計を見ては溜め息をついて、ただただ睡魔が訪れるのを待っていると、いつの間にかまどろんでいた。
◆
うわっ。こういうのって本当にあるんだ。
朝、下駄箱を開けると上履きがなかった。
見間違えかと思って、もう一度丁寧に閉めてから開ける。手品みたいに現れるわけもなく、溜め息をついた。
誰だろう。柊碧人のことを好きな誰かかな。
この前だって、他のクラスの女の子にも付き合ってるのっ?って訊かれたりしたし、そんな感じって言ったら、目つきが変わってすごく怖かった。
さて、どうやって中に入ろう。
朝から憂鬱でもう一度溜め息を吐くと、「美優?」と、声をかけられた。
振り返ると、タケちゃんだった。
学校で会話をすることがないから、ドキリとする。
「どうした? 固まって?」
「えっ……と」
上靴がない、なんて言えない。
黙っていると、閉まりきっていなかったわたしの下駄箱の扉を開ける。問いただすこともせず、
「スリッパ借りてくるから待ってて」と静かに告げた。
タケちゃんは、わたしが虐められてるとでも思ったかな。
それだったら嫌だな。かっこ悪い。
でもこれって虐めになるのかな。間接的だけど、今までこんなことされたことはなかったし。
タケちゃんが戻ってきたら、家に上履き忘れたことにしようかなと言い訳を考えてると、タケちゃんが緑のスリッパを持ってきてくれた。
「ありがとう」
「帰り、職員通用口に返せばいいって」
「うん。わかった」
タケちゃんは何も聞かずに、先に行ってしまった。