ごっこ遊び
遊びのあとに
大学二年生の春、学校を出てすぐの下り坂の途中で柊碧人を見つけた。桜の葉は緑に染まり、透きとおるような空が眩しかった。
彼と会うのは、わたしの高校卒業以来なので、一年ぶりとなる。卒業式だって、ろくに会話もしなかった。もちろん、その後も連絡さえとっていない。
どうしてここにいるのか。
「柊碧人?」
呼びかけると、昨日も会ったかのように、「なんでフルネームで呼ぶの」とだけ、言った。
◆
あれから一年が経つ。聞けば、柊碧人は、わたしと同じ大学に進学し、上京したということだった。
何かサークルとか入った方がいいかな、なんて言うから、わたしが入っている映画鑑賞サークルを紹介すると、すぐに入ることに決めた。
といっても活動自体が少ないし、たまにしか参加しなくてもいいから楽そうだというのが決め手だったらしい。
「実家から、蟹が送られてきた」
柊碧人がわたしのアパートに顔を出したのは、確かそんな理由だった気がする。
茹でて一緒に食べた。
それからも柊碧人は、野菜が送られてきたとか、うどんが大量に送られてきたとか、色んな理由でわたしの家にやってくる。
その日は、『石垣牛』が送られてきたらしい。
「碧人のお父さんは、どんなコネクションを持っているんだか」
こうも色々贈り物があると不思議で仕方ない。
訊くと、祖母が懸賞マニアでたまに柊碧人名義で応募をしたり、東北の各地にいる親戚から実家に色々送られてくると説明された。
きっとこの石垣牛はおばあちゃんの懸賞効果の産物なんだろう。
結局、ありがたく頂戴する。
わたしの家で焼肉をするため、お茶とビールと少しの野菜、それと焼肉のタレを準備して待っていた。