好きになってはいけない人


「おぃ。」


それでもクラスが一緒なトラは

避けるにしても限度がある。



呼び止められれば、無視するのは かえって不自然だし。


「なに?今急いでるんだけど?」


ただ話すのも怖い。

あの事があってから 目を合わす事すらしてない。


怖いんだ。目が合って。

その大好きな人の目に吸い込まれてしまうのが。

感情がトラの目に映ってしまわないかって不安になる。


「すぐ終わる。来いよ。」


「え。トラ!分かったから、手は離して。」


ここは校内だ。

私なんかといるところを チナツ先輩に見られるわけにはいかない。


私がそう言うと、トラはもっと強く手を握った。


痛いくらいに。


離してほしいのに、離して欲しくない。

こんなに強く手を握られたのは初めてで、こんな状況でさえドキドキしてしまってる自分が情けない。



トラは私の手を引いたまま

資料室に入っていった。


「俺のこと避けてるだろ。バレバレ。」


ため息を含めながらトラは言う。

< 34 / 50 >

この作品をシェア

pagetop