隣人が世話焼きな件について


手を繋いで歩いて10分のところにある写真館を目指す


写真館に行くのは成人式の前撮り以来なので少し緊張する



「ねぇ、こうちゃんはどうして社長さんの下で働きたいと思ったの?」


ちょうど1年前くらいに新卒で高梨グループに入社したこうちゃんは希望通り秘書課に配属され1年間の社長秘書補佐を経て、今年度から正式に社長秘書となった


大きなグループ会社の社長秘書になるなんて相当な努力をしたに違いない



「大学2年の時に大学の周年パーティーで講演会のゲストで社長が来てたんだ。」


私がまだ入学する前だ



「普通講演会って前もって話す内容とか資料とか用意するでしょ?社長は手ぶらで話す内容も決めずにきて、学生達に『最近気になることは?』って聞きながら政治経済の話から恋愛や芸能の話まで全部自身の意見も混ぜながら話を膨らませて会場中を魅了していったんだ。」


思い出しながら微笑むこうちゃんは本当に社長さんのことを尊敬しているんだろうな


「退屈なはずだった講演会90分があっという間に終わってしまって、あの人ともっと話がしたいって思ったんだ。実際、今も毎日のように得るものがあるよ」



こうちゃんのように成長できる仕事っていいなと漠然と思う



思い出話を聞いているうちに写真館へ到着した



「う…緊張する…」


店の中に入る直前に押し寄せる緊張感



「スピード写真じゃその緊張感は味わえないでしょう?本番はもっと緊張するよ」


その言葉に逃げ出したくなる気持ちを抑え、入口の自動ドアのボタンを押す




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