マーメイドはホテル王子に恋をする?!
カッパなんてニックネームを付けられていた過去の話なんて聞きたくもない。
話すのなら私のいない所でやってよ。


「おっと、もうそんな時間ですか。…でしたらこちらもお暇をしましょう。本日はどうもお時間を割いて頂きましてありがとうございました。
橋本さんへの表彰状は近々発送されてくると思いますので、届き次第こちらに持って参りますから」


そんなものは要らないよ。…と言うか、そんな賞状頂く必要もないし。


断ったところで、賞状を作り発送するのはこの人達ではない。
言ったって無駄になるのなら余計な言葉は言わないで黙っておこう。


部屋を出て行く三人を社長と一緒に見送り、自分も業務に戻ろうと足を踏み出した時だ。



「花梨」


下の名前で呼び止められ、ドキン!と胸が弾んだのを意識しながら無言で社長の方へ振り向く。


月曜日とは違い、今日の彼は社長らしく身だしなみを整えている。
一筋の乱れもなくセットされた髪の毛にも、着こなした高そうなスーツからも品格と知性を感じる。


間違いなく住む世界の違う人なんだと思える。
そんな彼と私が、本物の恋人になれる訳がないんだ…と思うと、ぎゅう…と胸の奥が強く締め付けられてしまった。



「…何でしょうか、社長」


今日の呼び方はこれで良かった筈だ。
ここはホテルという名のオフィスで、しかも彼が執務を取る大事な場所。


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