マーメイドはホテル王子に恋をする?!
それなのに、何だって言うの、その目。
何だか詰まらなそうに見える表情にも戸惑う。


「今は二人だけなんだからその言い方は止せよ」


社長の不機嫌そうな声にビクつき、私の方が何かしたの?という気分になってくる。


「ですが、今は就業時間内ですし」


そういう問題じゃない。
私と貴方は一日だけの恋人だった筈ではないのか。


「そんなのこの部屋ではあって無いようなものだ。とにかく俺のことを役職名で呼ぶのは止めろ」


「でも…」


「いいから」


さっと掴まれた右手首に力を入れ、引き寄せるが早いか、あっという間に唇を重ねてきてしまった。
腰に回された腕が彼と距離を縮めて、更にぐいっと近付けていく。


「…ん…っは…ん……んんっ……」


苦しいばかりに唇を吸われて舌も激しく絡んでくる。
このキスを欲しいと何度も頭の中で考え、それを打ち消そうとしてきた努力さえも無駄になっていきそう。


「やめ…」


拒否すらもさせて貰えず、再び舌を差し込まれた。
社長の気持ちが見えないままされるキスは乱暴にも思えてきて苦しい。

ゴクン…と唾液を飲み込むこともできずに唇の端から垂れ始め、私の意識が何も考えられなくなってから、彼の舌と唇が名残惜しそうに離れていった。


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