マーメイドはホテル王子に恋をする?!
「本社グループから以前居たホテルに一時的でいいから席を戻せと言われました。俺としては改革途中にあるこのホテルを放置して行くことなど出来ないと断ったのだが、聞き入れては貰えなかったよ…」


残念そうに肩を落とす彼に同情と困惑の視線が向けられる。
私の隣に立つ片山さんも小さく舌を打つような音を出した。


「しかしながら、折角やり始めた改造計画だ。俺のいない間にも皆さんには是非とも取り組んで頂きたい。
前のホテルでの仕事が済んだら、直ぐにまた戻って来ます。それまで何とか努力をし続けて行って欲しい。
俺がいなくても大丈夫だと信じて、頑張り続けて欲しいと願います」


社員に熱い気持ちを込めて語り、社長の目線がこっちを向いた。
ドキン…と胸が疼いてしまうのは、眼差しが私を見ていると勝手に思ってしまったからだ。


「この町には都会にはない良さが色々とあります。
海と温泉だけではない、人情や農産物、畜産に海産、由緒正しい仏閣や神社までが揃っている。
この町の全てがホテルの魅力だと宿泊客の皆様に認めて貰えるようなホテル作りをして欲しい。
一度だけでは飽き足らない。何度でも訪れたくなる場所への取り組みを日々積み重ねていって頂きたいと願います」


お願いします…と頭を下げる社長には、就任当初の頃のような暴君ぶりは見られない。


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