マーメイドはホテル王子に恋をする?!
そう思う気持ちは真剣で深い。
だけど、不安も大いにある。

変えることの出来ない出生だけは、彼女になっても付きまとう。

この冴えない田舎の町で生まれ育ってきたことは、絶対に一生付いて回る。

田舎者の私がいくら頑張っても、都会生まれで都会育ちのセンスあるお嬢様には敵わない。

外見をどんなに変えることが出来たとしても、中身は田舎のマーメイドのままだ。


だけど……


社長はこんな私を綺麗だと言ってくれた。
ホタテ貝の上に立つ女神のようだと例え、あんなに大事に、大切に愛してくれた。


あの思い出があれば不安なんてあっても平気。
大海に出ていく小さな蛙のように、勇気を持って踏み出そうと思う。

社長に好きですと伝えて、私のことを本気で好きになって下さいと願おう。


……だけど、どうして。

社長は秋口になっても帰って来ない。
此処は今から寂しい季節が始まるのに、どうして何の音沙汰もないのか。


流石にこの頃は、社員達も不安を口にするようになった。
忙しい季節が一段落して、これから閑散期が来るのを皆怖がっている。


誰もが社長の帰りを待ちわびている。
私だけではなく、皆が彼のことを待っているのにーーー。



そのニュースが流れてきたのは九月に入って間もない頃だった。
学校の二学期が始まりましたね…と、テレビのニュースキャスターが喋っていた時のこと。


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