マーメイドはホテル王子に恋をする？！
頭の中では早くこのホテルから去りたいと願っていて、一刻も早く時間が過ぎて行かないだろうかと考える。

この数ヶ月間、自分が望み意気込んでいたことが全て泡のように無駄になってしまった今、此処に居ることが苦痛でならない。


彼がこのホテルを離れた時と同じように、独身のままで戻ってくるのだと信じていた。

社員に語った熱い思いを胸に抱いたままで、再びこのホテルの指揮を取るのだと思っていた。


……だけど、現実ってやっぱりこんなもの。


都会に戻れば甘やかしてくれる恋人の一人もいて、それなりの地位にもあるのだから、それは恋人ではなく許嫁だった可能性もある。

たった一日だけの恋人として町内を回った私とは違い、その人とはきっと、何日もの時間を積み重ねてきたのだ。

私みたいな田舎娘が、彼の心の中に潜り込める訳がない。

自分一人だけがその気になりかけていたけれど、最初からこうなる運命だったのだ。

落ち込んで泣いたり騒いだりするようなことではない。むしろ喜んで祝福するのが当然だ……。


そう思っているのに気持ちはどんどん沈み込んでいく。
海の底に落ちるみたいに、悲しみがどんどん深くなる。

気持ちを緩ませると涙が目に浮かび、止め処なく溢れそうになるから困る。

こんな時に社長に戻ってきて欲しくない。
できれば皆の言うように、二度とこのホテルには帰らないで欲しいーー。


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