マーメイドはホテル王子に恋をする?!
彼の奥さんになった女性になんて会いたくないもの。
見れば必ず落ち込んで、自分自身が嫌になると思うから。
一日の長い拘束時間を終えたのは午後七時。
秋口の今はまだ陽も沈んでおらず、夕日に染まりだした空はなんとも言えない綺麗なオレンジ色に染まっている。
私は着替えを済ませても駐車場には向かわず、ホテルにあるプライベートビーチへと足を運んだ。
社長と夜を過ごしたあの日、この海で子供を助けた。
本当に久し振りに泳ぎ、水のかき方も足の動かし方も忘れているのではないかと不安だったけれどちゃんと泳げた。
最初から私は二本足を持つ人間なのだ。
尾鰭を使って泳ぐマーメイドなどではない。
『童話では人魚は泡になるんだよな。でも花梨、お前は泡になるなよ』
そう言って顔を近付けきた彼との思い出が、まるで波で崩される砂山のように消えていく。
私が人魚なら間違いなくこの場所で海に飛び込み、跡形もなく消え失せてしまうだろうにーー。
「…でも、残念ながら私、人魚じゃないのよね…」
呟きながら大粒の涙が溢れ落ちていった。
揺らぐ視界に見える海は穏やかで、小々波すらも立ってない。
だけど、胸の中が騒つく。
社長は帰ると言ったのに帰らない。
だから余計にそれも腹立たしくてーーー
「何が『恋人だろう』よ。嘘ばっかじゃん」
見れば必ず落ち込んで、自分自身が嫌になると思うから。
一日の長い拘束時間を終えたのは午後七時。
秋口の今はまだ陽も沈んでおらず、夕日に染まりだした空はなんとも言えない綺麗なオレンジ色に染まっている。
私は着替えを済ませても駐車場には向かわず、ホテルにあるプライベートビーチへと足を運んだ。
社長と夜を過ごしたあの日、この海で子供を助けた。
本当に久し振りに泳ぎ、水のかき方も足の動かし方も忘れているのではないかと不安だったけれどちゃんと泳げた。
最初から私は二本足を持つ人間なのだ。
尾鰭を使って泳ぐマーメイドなどではない。
『童話では人魚は泡になるんだよな。でも花梨、お前は泡になるなよ』
そう言って顔を近付けきた彼との思い出が、まるで波で崩される砂山のように消えていく。
私が人魚なら間違いなくこの場所で海に飛び込み、跡形もなく消え失せてしまうだろうにーー。
「…でも、残念ながら私、人魚じゃないのよね…」
呟きながら大粒の涙が溢れ落ちていった。
揺らぐ視界に見える海は穏やかで、小々波すらも立ってない。
だけど、胸の中が騒つく。
社長は帰ると言ったのに帰らない。
だから余計にそれも腹立たしくてーーー
「何が『恋人だろう』よ。嘘ばっかじゃん」