マーメイドはホテル王子に恋をする？！
呟きながら雫はどんどん零れ落ちる。
帰ってきたとしても、彼はこれまでの様な独身の王子ではないのだ。


砂の上に落ちたシミは直ぐに吸収されて消え、浜辺はすぐに乾いていく。
この砂浜のようにあっさりと現実を認めて、彼のことを忘れていければいいのだがーーー。


「そんな器用なこと……できないよ…」


あんなに熱い夜を過ごした人のことを簡単に忘れるなんてどうしてもできない。

あの腕に抱かれて、もう一度と言わずに何度も一緒の朝を迎えたいと願っていたのに。

心の何処かで彼が私を好きだと言い、それを耳にするのを望んでいた。

それなのに何も叶わず、泡のように全てが消えてしまったなんて信じたくない。


本当は彼がこのホテルに戻らないなんて思いたくもない。
決して手の届かない人だとしても、存在自体までが消えてしまうとか考えられない。


もう一度でいいから彼に会いたい。

駄目元でもいいから伝えたい。



「潤也さん……貴方が好きなの……」


ザザーッと波が大きく立って引いていった。
潮目が変わりだして、砂が削られるように攫われていく。


この砂みたいに私も彼に連れ去られたら良かったのに。
狭い田舎町だけでなく、大きくて広い世界を知りたかったーーーー。



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