マーメイドはホテル王子に恋をする?!
そもそもあの一日だけのお遊びで、それ以降のことは、全部おふざけでしかなかった筈。


貴方がこの先もホテルの社長をし続けるのなら部下でいい。
この田舎にあるリゾートホテルのフロント係として、日々冴えなくてもきちんと務めていく。


だからもう離して。
私に構わないでーーーー。




「花梨?」


社長が戸惑うように囁く。
腕の力は緩まったりしないけれど、声は明らかに困惑している。


「振り回すなって何だよ。そっちこそいい加減、俺を恋人だと認めろよ」


頭の上から降り注いでくる声に今一度胸が大きく疼いた。


この人はまだこんなことを言うのか。
私が何も知らないとでも思っているの……



「恋人なんかじゃないです」


悔しそうに口に出した言葉を機に、溢れてきたのは悲しみよりも怒りだった。


「社長はそう言っていつも私をその気にさせる。田舎娘だからそう言えば本気になるとでも思っているの?!馬鹿にしないでよ。私は貴方の遊び相手にはなりませんから!」


頭の中では自分のことをボコボコに殴っていた。
胸は痛くて仕様がないけれど、やっぱり素直にはなれないーーー。



「……俺、そんなに嫌われていたのか」


ボソッと呟かれた言葉にズキン…と胸が痛む。

これは彼の常套手段だ。
そう何度も同じ手に乗ってはいけない。


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