マーメイドはホテル王子に恋をする?!
「そうか…。好きになっていたのは俺だけだったのか……」
気落ちしたように緩んだ腕の中で、私はまだ頑固に彼を信じてはいけないと思っていた。
彼はもう人のものだ。
苦しいだけの恋ならせずに、止めておいた方がいい。
「やっと本気になれる相手が見つかったと思ったのにな……」
悲しい声色で零した言葉を最後に彼の交差していた腕が離れた。
私はそれでも動けず、反対に彼の方が動きだした。
背中を包んでいた体温が離れて、隙間を埋めるように海風が抜けていく。
「…ホテルに向かう途中で花梨の姿を見つけて車を降りてきたんだ。…これからホテルに帰るよ」
誰に理を言っているんだ…と思い、この場にいるのは彼と私だけだと思い出す。
「花梨は……いや、橋下はもう仕事を終えたのか?」
夕日が沈み、急に暗くなり始めた辺りの雰囲気に顔を上げながら頷いた。
切り替えの早い社長に戸惑いながらも、傷付くのならお互いに浅い方がいいと思った。
「そうか。じゃあもう帰れ」
そう言いながら自分が足を踏み出そうとはしない。
私が動きだすのを確かめてからにでもするつもりなのか、その視線はまだ私に向いたままのように思える。
「帰ります(…とも。当然)」
後半の言葉は口にせず飲み込む。
必要以上の言葉を言い合う気力はない。
気落ちしたように緩んだ腕の中で、私はまだ頑固に彼を信じてはいけないと思っていた。
彼はもう人のものだ。
苦しいだけの恋ならせずに、止めておいた方がいい。
「やっと本気になれる相手が見つかったと思ったのにな……」
悲しい声色で零した言葉を最後に彼の交差していた腕が離れた。
私はそれでも動けず、反対に彼の方が動きだした。
背中を包んでいた体温が離れて、隙間を埋めるように海風が抜けていく。
「…ホテルに向かう途中で花梨の姿を見つけて車を降りてきたんだ。…これからホテルに帰るよ」
誰に理を言っているんだ…と思い、この場にいるのは彼と私だけだと思い出す。
「花梨は……いや、橋下はもう仕事を終えたのか?」
夕日が沈み、急に暗くなり始めた辺りの雰囲気に顔を上げながら頷いた。
切り替えの早い社長に戸惑いながらも、傷付くのならお互いに浅い方がいいと思った。
「そうか。じゃあもう帰れ」
そう言いながら自分が足を踏み出そうとはしない。
私が動きだすのを確かめてからにでもするつもりなのか、その視線はまだ私に向いたままのように思える。
「帰ります(…とも。当然)」
後半の言葉は口にせず飲み込む。
必要以上の言葉を言い合う気力はない。