マーメイドはホテル王子に恋をする?!
声を和らげる社長の口からトゲトゲしい態度が抜けた。
私は横目で彼を見て、その口元に浮かぶ笑みに、きゅん…と胸が疼いてしまった。


「ただ、かなり久し振りに来たからショックも大きかった。すっかり寂れた雰囲気になっていて、俺が子供の頃とはまるで違う部分が大いにあって悲しかったよ」


ホテルが建って四十年近くにもなるんだから当たり前だよな…と笑う。その笑いも乾いていて、何処か切なそうに聞こえる。


「……社長は、この土地とどんな関係があるんですか?」


離れている間、ホテルの経営について様々な業種の人達と話をした。

若松君や養鶏所の所長さんは勿論、このホテルの周辺に住む人達や農家の方々、それから少し離れた場所で雑貨店を経営する奥さんでさえも、社長のことを憶えていた。


「…俺か?それもこれから話すよ」


ホテルの玄関口まで来ると、アプローチの側で佇む秘書の岩瀬さんの姿があった。


「お帰りなさいませ。皆さんがお待ちかねですよ」


優しい声で子供を出迎えるように話す。
最初の日に、彼を無理矢理連れて来られた宇宙人のようだと例えたのは失言だった。

多分、無理矢理此処へ連れて来られたのは社長の方で、岩瀬さんは精一杯空威張りをしている社長を、淡々と控え目な態度で見守っていただけなのだ。


「うん。ありがとう岩瀬さん」



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