マーメイドはホテル王子に恋をする?!
躓いて転びそうになりながらドアへ駆け寄る。
覗き穴から見てみれば、ハリウッドスター並みにイケメンな彼が立っている。

レバーを下げてドアを引くと背の高い彼が隙間から滑り込み、直ぐにその腕で私のことを抱き締めた。


「花梨…ただいま」


さっきの再会からやり直し?
面白いな…と思いながら「お帰りなさい」と背中に腕を回した。


まるで告白もしないうちから恋人みたいだ。
彼のワイシャツから香るオーデコロンを胸いっぱいに吸い込む。

力が緩んで顔を上げると、彼の顔が嬉しそうに微笑んだ。
切れ長の目尻が垂れ下がっていて、きゅんと胸が疼いてしまう。


本当にただ笑うだけで気持ちが溶けてしまうなんて破壊的なスマイル。
彼に笑いかけられたら、どんな女性でも恋に落ちてしまいそう。



(あ…そっか…)


急に合点が行った。
もしかしたらあのデマを流した女性も、この破壊的なスマイルに魅せられてしまった一人なのかもしれない。



「…花梨」


頬を包まれているのに気づき、心音が更に加速を続ける。

近付いてくる彼にキスをして貰いたい。
だけど、その前に聞きたいことが多過ぎてーーー。


「……待って!まだ駄目よ」


間近まで来た唇の前に掌を出した。唇の先が触れ、否応もなしに心音が跳ねる。
顔を離した彼が詰まらなそうに唇を突き出し、私のことを軽く睨んだ。


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