マーメイドはホテル王子に恋をする?!
「いいホテルだな。俺が社長をしていた時よりも活気がある」


そう言われて社長も嬉しそうだ。
自分の父親が建てたホテルの再建を任されて良かった…と、いつだったか私に話してくれた。


その話を聞きながら、このホテルと同じように、別のホテルでも社長が訪れるのを待っている所があるのかもしれないと思った。


シーサイド・リゾートホテルの経営が上手く運んでいく中、何処か一箇所でもいいからケチが付いて、社長をこの土地に引き止められないだろうかと思う自分が卑しい。


彼にプロポーズもされないまま付き合いが続き、そのままこの場所に置き去りにされそうな気がする。

付いて来いと言わなければどうしたらいいのか。

付いて来て欲しいと頼まれても、一歩が踏み出せるかどうかが不安ーーー。



自分の臆病さに呆れたまま夏の繁忙期が来た。
社長の就任から一年が経ち、お客様のグレードも確かに上がってきている。


この最近は外国人のお客様も増えた。
海鳴神社が海外のテレビ番組で紹介され、それがネットを通じて配信されたのが理由らしい。


私がホテルに勤め始めて五年。
ようやくシーサイド・リゾートホテルの名前に相応しくなってきた。


だけど……


フロントのカウンターから見える海の景色だけは相変わらず。
遥か万葉の昔からあるあの海だけは、これからもこの場所に在り続ける。

誰からも綺麗だと言われ続けていく。
眩しいね、と囁かれる……。


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