マーメイドはホテル王子に恋をする?!
「……はぁ…」


こっそりとチャペルの様子を見に来た。
繁忙期の合間を縫って、この場所で一息つくのが習慣化している。


巻き貝のように造られたチャペルの天井には、弧を描くようにオーク材が渡されている。

ブラウンの木目とホワイトの壁とのコントラストを見遣りながら、白くペイントされた木のベンチに腰掛けた。



六月の初め、此処で同級生の挙式が行われた。

真っ白な壁にピンク色の百合の花が映え、新婦の同級生がとても綺麗だった。

神父様は母校で英語教師を務めるイギリス人で、水泳部の顧問をしていた松本先生が紹介してくれた。

いつもいろんなことを助けてくれる先生に、私は常に感謝をしている。

私が水泳を止めたいと言った時も、先生は一度も「もう少し続けろ」とか言わず、「何故止めるんだ?」とかも聞かなかった。


「そうか…勿体無いな…」とたった一言囁いただけ。
それから「またいつでも泳ぎたくなったら来い」と言った。


後から聞けば、そう言えば私が止めないと思ったのだそうだけれど、あっさりとプールへ来なくなり、(ああ、本当に精一杯やったんだな…)と実感してくれたのだ。


地元に戻り、このホテルを紹介されて面接に受かった。

フロント係として働いてはいたが、水泳と同じくらい業務を一生懸命にはしてこなかった。

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