マーメイドはホテル王子に恋をする?!
「ここに居たのか」


やっと見つけたように言われ、「すみません、探していたんですか?」と尋ねた。


「ああ。ちょっと相談があって」


「相談?」


問い直すと、頷きを返してドアを閉める。
二人だけでチャペルの中にいると、変に息が詰まってきそうだ。



「花梨…」


社長の目が真剣そうで、何の相談なのだろうと身構える。
もしかしたらプロポーズをしてくれる?なんて、少し気持ちが浮き立った。


「実は十月から次のホテルへ向かうように本社から指令が来た。ここの社長を大川に任せて、別のホテルへ向かう」


ガン!と殴られた様な痛みが頭に走り、足元がふらり…としてしまった。



「大丈夫か?」


ヨロついた私を支え、社長が顔色を窺う。
彼にどんな目を向ければいいかわからず、目線を合わさないままで「はい…」と答えた。


恐れていたことが現実になってしまった。
社長がこのホテルを離れて、別の土地に行ってしまう。

もう此処で彼の顔を見て笑うことも出来ないし、彼の別荘へ行って二人で夜空を見上げることも出来ない。

町内を歩けば注目されて、同級生達からの冷やかしのメッセージが届くこともないーーー。


何もかも彼が来る前に戻るのだ。
ただ変わるのは、お客様が増えたホテルが此処に在るというだけ……。


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