マーメイドはホテル王子に恋をする?!
自分を支えている腕のワイシャツを握り返した。

この腕の中で自分が彼に愛されるのは九月まで。

その後はない。

それからはお別れーーー



そんなふうに考えると嫌だと思った。

私はずっと彼と一緒に居たい。
一人で残されるのなんて嫌。


「社長…」


付いて行きたい。
私をこの町から連れ出して。


震えるような気持ちで彼を見遣った。
だけど、社長の口からは思うような言葉は出なかった。


「花梨に相談というのは、俺がこのホテルを離れて行った後のことだ。ホテルのフロント業務をやる者が減るだろう。それで…」

「それで私にどうしろって言うんですか!?」


思わず声を上げた。
私が聞きたいのはそんな言葉ではない。

フロント業務をする者が減るのなら、私の時と同じ様に誰かを雇えばいいのではないか。
それこそ新しく社長を務める大川主任に任せて、自分が心配しなければいい。


私はただ、彼に付いて来て欲しいと言われたかっただけだ。
それなのに、その一言もくれないなんて……。



(やっぱりマーメイドの恋は泡になって消えるの……)


思い詰めたら悲しくなって、一粒涙が溢れたら、後から後から止まらなくなる。



「花梨…」


社長が困惑している。
暴君ではないと思っていたけれど、非情な王子だったのか。


「ぐすっ…」


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