マーメイドはホテル王子に恋をする?!
どうして私がお叱りを受けるんだ…と納得しない思いでいたら、「おいっ」と怖い人の声がしてビクッと背中が伸びた。


「は、はい!」


まだ何かお気に召さない物でもあったのだろうか。
もしかして、ロビーに置かれたままの金魚とメダカの飼育ケースのことかなぁ。


「大丈夫か。怪我はないか」


「は?怪我?」


瞬きして聞いたら小山内社長はムッとした顔で、「落ちそうになっていただろう」と聞き返す。


「あ……大丈夫です。どうもありません」


普通に心配をしているだけのようだ。
暴君が心配?もしかして何かの間違い?


「次は気を付けろよ。落ちて怪我しても労災は認めないぞ」


それはジョークで言っているの?
それとも本気なんですかぁ?


フッと薄笑いを浮かべた社長は次の箇所へと移って行く。
さっきと同じように暴君ぶりを発揮して、次から次へと社員を動かす。


こっちは呆気に取られたままその様子を窺った。
暴君社長は的確に人を動かし、ホテルのテーマに相応しい空間作りを着実にこなそうとしている。


たった半日程度でロビーの雰囲気が少し変わり始める。
田舎くささが多少なりとも軽減し、垢抜けたように見え始めた。



午後からは各セクションの責任者を集めて会議があった。
多分、私がこのホテルに就職してから初めてと思われる本格的な戦略会議。


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