マーメイドはホテル王子に恋をする?!
「あれは単なる市場調査に付き合えと言われただけよ。行きたいなら代わりましょうか?」


私は休みの日くらいノンビリと過ごしたいのだ。
夜勤や準夜勤もするから丸一日の休みは貴重なのに。


「いい、いい」


「遠慮しておく」


「折角社長に誘われたんだから行っておいでよ」


「後から報告だけはヨロシクね」


なんだかんだ言っても皆あの社長が怖いのだ。今日も朝から機敏に動いて采配を振り続けているものだから。


しかも、それが全部、無理難題が多過ぎるから弱る。

ラウンジのコーヒーが不味いから喫茶店へ行って学んで来いとか、料理にセンスがないから料理学校へ入り直せ、とかいう感じで。

私に至っては、「メイクが派手になればいいってもんじゃない」と言う始末で、だったらプロでも雇ってよ…と、思わず反論したくなる言葉を吐かれた。


片山さんだけはそんな社長を「潤ちゃん、潤ちゃん」と呼んでいる。
彼も彼女には形無しのようだ。

私はそれを聞きながら(潤ちゃんなんて可愛いものじゃないよ。あれはタダの暴君!)と叫びたい心境が募っていく。

週末明けの休みが来るのが恐ろしい。
あの暴君社長は私を連れて、どんな暴言を吐き廻るつもりだろう。



(あーあ、風邪引いたと言って断っちゃおうかなぁ)


選ばれたのがどうして私なの…と、ガックリ肩を項垂れて溜息を吐いた。


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