マーメイドはホテル王子に恋をする?!
従って夏場以外の集客能力を上げる為に行っているのが、地元企業に向けた忘年会や新年会などの会合利用の斡旋で、チラシを各オフィスに配り、ひたすらご利用を待ち続ける…という手段だ。


そんな名ばかりのリゾートホテルに私が就職できたのは、高校時代に部活でお世話になった松本先生のおかげで、さっきの大川主任と同級生だった先生が地元へ帰ってきた私のことを知り、雇ってはくれないだろうか…と、わざわざ話に行ってくれた。


「俺の扱きに耐え抜いた子だから根性だけはあるよ」


そんな一言のせいで「面接においで下さい」と電話が掛かった。

この就職難な町でも仕事にあり付けそうなら行きなさい…と父からも勧められ、嫌々ながら慣れない車の運転をして海辺のホテルへ向かった。


白亜の城、はたまた南フランス風とでも言うべきか、真っ白い壁にオレンジ色の屋根瓦が映えるリゾートホテルは、海岸線に沿うような形で建てられている。

それに続く道を曲がると緩やかなカーブの先には視界を遮るものが一切無くなり、眼前には青い海が広がる。

その美しさに一瞬だけ心を奪われる。
けれど、感動は直ぐに消えてなくなる。

私達地元民からすれば、それは過去も現在も変わらない風景が広がっているだけで、コバルトブルーの海も、二つの海流が寄り添う瀬戸も、遥か万葉の昔から続く景色の一つにしか過ぎないのだ。


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