マーメイドはホテル王子に恋をする?!
車体の後ろ側へ回り、後部座席のドアに指を引っ掛けた時だ。
カチャ…とロックが外れる音がして振り向くと、運転席にいる社長の腕が伸びている。

前傾姿勢になった横顔を見つめ、何をしているのかと思えば。


「何処に座ろうとしているんだ。こっちに来ればいいだろう」


ジロッと視線を送られ、ビクッと蛇に睨まれたカエルの如く固まった。

社長自ら助手席側のドアを開けてくれたのだ。
エスコートまではされないにしても、それは予想外だったと言うか意外で……。



「はしもとかりん!早く!」


金曜日の一件以来、何故か私をフルネームで呼ぶ社長。
「は、はい」とオドオドしながら返事はしたけれど、ドアの取っ手に触れる指先は生まれたての子羊の脚のように震えている。



(ナムアミダブツ)


どうか今日一日、無事で過ごせますように。
社長を不機嫌にさせて不快な一日にならない様に願いますーー。


何に祈っているのかも分からず、とにかく乗ってしまおうとドアを開けた。

車内からは仄かなマリン系の香りが漂い、否応もなく緊張する。どう見ても革張りっぽいシートに身を沈めた後は、見た目にもフカフカなマットの上に靴裏を乗せた。


「シートベルトを締めろよ」


ドアを開ける為にわざわざ外したと思われる小山内社長は、自分もベルトを締めながら呟く。


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