マーメイドはホテル王子に恋をする?!
そりゃ一見するとハリウッドスターか俳優にしか見えないのだから、当たり前と言えば当たり前だ。


「花梨」


ドキッとして顔を見上げた。
それまでフルネームでしか呼ばなかった社長が、どうしていきなり下の名前で呼ぶの?


「さっき言っていた県産品のコーナーは何処だ?」


聞き方も何だか優しくない?
それともこれは気のせい?


「あの…こっちです…」


社長の手から離れようとするが、まるでそうはさせないといった感じで付いて来る。


どういうつもりでいるの?
部下を困らせて楽しんでいる?


加速する心音がオーバーヒートしそう。
これ以上は意識しないでおこうとしているのに、これではやっぱり意識する。



「花梨、あれを見ろ。生け簀があるぞ」


県産品のコーナーへ行く途中で海産物コーナーの一角に作られた生け簀を指差す。
早朝の漁で獲れた魚やイカが、その中に放されているのだ。


「美味そうなサザエだな。イカも透明で綺麗だ…」


生け簀を外から眺め、優雅に泳ぐ魚たちを真剣に覗き込んでいる。
社長の横顔は無邪気で可愛い。やっぱり幼いところがあると思うと無性に可笑しくなってしまった。


「プッ…くくく…」


しまった。つい吹き出した。


「何だ?」


ふわっと柔らかい表情で振り向かれて胸が鳴る。
市場調査だというのを忘れて、何処か浮かれそうになっている自分に気づいた。


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