マーメイドはホテル王子に恋をする?!
きゅんと胸が締め付けられて、申し訳ないような気がしてくる。
私がいつも見ている社長とは違い、今日の彼は何処か近い感じのする人だ。



「出てみようか」


声をかけられて頷く。
あまり来たい場所ではないが、社長とならいいかもしれない。


カチャ…とドアを押し開けて外に出ると、太陽はだいぶ真上に近くて、燦々と降り注ぐ日差しは強く、ジリジリと肌が焼けてきそうだ。



「神社というのはアレか?」


遊歩道のように続く小さな鳥居の波を潜り抜けた先にある社を指して尋ねる。
断崖のような岩の上に建っていて、そこへ登る為の迂回路もあるが。


「御利益を得るには楽をしない方がいいよな」


そう言われて、「はぁ」と呟いて背中を追った。
狭い遊歩道はクネクネと折れ曲がり、急に登り道になったり、岩がゴツゴツと地面から顔を覗かせたりしている。

水泳大会の優勝祈願をする為に何度も訪れたことがある場所だけれど、こんなに歩き難い道だったっけ。


(あーそうだ。このヒールのあるパンプスの所為か)


此処へ来るならスニーカーにしておけば良かった。
しまったなぁと思いつつ足を進ませていると、社長が大丈夫か…と振り返った。


「その靴で歩けるか。花梨が先に行けばいい」


何かあったら受け止めてやると言いだした。
今日の社長はとことんズルい。
私の気持ちが落ち込みかけているところへ、その親切心を見せるなんて。


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