マーメイドはホテル王子に恋をする?!
(ズルい訳じゃないのか。私がただ落ち込んでいるだけだ……)


前後を代わって歩き出しながらホッとする。
前を歩いていた方が、不意に泣きそうになった時に助かるからいい。
社長に泣き顔を見られるなんて、一度だけで懲り懲りだ……。


黙々と足を進めて、お社の近くまでやって来た。
急勾配になった道は幅が広くなったけれど、険しさは相変わらず変わらない。
断崖を登るように作られた階段は差が大き過ぎて、足を振り上げると後ろへと転びそうになる。



「これは結構足にくるな」


流石の社長も息が切れている。
「そうですね…」と答える私自身も、息絶え絶えに上へと足を運んだ。

ところが、後一段か二段…というところで足の力が急に抜けてしまい、カクンと膝が折れて態勢を崩した。


「危ないっ!」


後ろへ倒れ込みそうになり、ドスン…と胸にキャッチされる。そのお陰で何とか転ばずには済んだけれどーー。


「あわわ、すみませ……」


んの字まで言えずに息が上がる。
社長の胸に寄り掛かる態勢でいるものだから、嫌でも彼の心音までが聞こえてくる。


ドクドク…と波打っている。
男性の心音を聞くなんて、きっと大学時代の彼以来のことだ。



「…す、すみません!本当に…」


怖さよりも恥ずかしくなって離れた。
自分よりも少し低い位置に社長の顔があって、余計に心臓が跳ね上がる。


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