マーメイドはホテル王子に恋をする?!
「やっぱりさっき代わってて正解だったな」


得意そうに笑う顔がイケメン過ぎる。
スィートルームでもそうだったけれど、社長の笑顔には破壊力があり過ぎ。


ドクン!と更に胸が大きく弾んでしまった。
これは私だけじゃなく、このイケメンの胸に縋れば、誰もが恋に落ちてしまうのではないか……。



「ほら、頑張れ。あと少し」


ポンポンと頭の上に乗った手の存在が大きくなる。
水泳をしていた頃の自分は、同じように大勢の人から頭を撫でられ続けてきた。


学校の関係者からは期待を込められて、家族からは激励と安堵を込めてーー。


様々なプレッシャーを掛けられながら、そのプレッシャーから解放されるのも同じ手の存在だった。


だけど、社長のこの手はあの頃とは意味が違う。
本当に優しくて、いつも安心ばかりを感じるーー。



(……駄目だ。泣きそう)


慌てて社長に背中を向けて前を向いた。
壁のようにそびえる階段に足を乗せ、自分の体重を掛けるように蹴上がって行く。


上がってしまえば開放感しか残らない。
プールの中でゴールの壁にタッチをした時のように……。




「綺麗だな」


階段を登り切った社長の声に振り返った。
息を弾ませたまま、視線は遥か水面を眺めている。



「そうですね」


社長の横顔は本当に綺麗だ。
今日一日とは言っても、恋人役ができて得だった。


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