マーメイドはホテル王子に恋をする?!
言い方がこれまでよりも優しい。
ぎゅっと心を掴まれてしまったようで、こっちは苦しくて仕方ない。


「じゃあ……よ、養鶏所に行きましょう」


私の言葉に不意を突かれたのか、驚いた顔で振り向き、同時にブハッと吹き出した。

可笑しくて堪らないといった感じで笑い出し、「お前って間抜け」と笑い声の合間に暴言を吐いた。


流石にこのロマンチック過ぎる場面で養鶏所はなかったかもな。
でも、連れて行きたいのには理由があったからーー。



「いいよ。そこへ行こう」


笑いを噛み締め、さっきまでと同じように肩を抱いてくれる。
パンプスを履いていないと、私の目線は丁度社長の肩辺りくらいになる。


くるっと振り向いた社長もさっきよりも低いと思ったのか、ふわっと微笑み、私はその笑顔にドクンと胸が疼いた。


もしかしてまたキスされるかと思ったが、社長は唇をきゅっと閉めて前を向いた。

ガッカリするなんて烏滸がましい。
でも、やっぱり残念だと感じてしまったーーーーー。




島を離れ、少し山の方へ向かう。

山間の道は人も車も通らず静かで寂しい。
その谷間にある養鶏所に着くと、社長はどうして此処なんだ?と問うてきた。


「この養鶏所はハイテクらしいんです。排気も臭いを軽減するように造られているらしくて、県外からの視察も多いと聞いてます。

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