マーメイドはホテル王子に恋をする?!
社長が私ともっと一緒に居たいって?
どうして?
私が隙だらけに見えたの?
「困る…」
口先で呟くように声を出すと、社長は残念そうな目を向けた。
いつもの豹みたいな目ヂカラはなくて、何だか寂しそうだ。
これはきっと社長が女性を誘う時にいつも使っている手段だ。
だから、乗ってはいけない。
乗ったら絶対に後悔するーーー。
ぐっと唇を噛み締めて息を飲む。
断れ、断れ…と思いながら、それでも気持ちが揺らいでいく。
「……でも……もう少しだけならいいです……」
後悔すると思っているのに、何故か反対の台詞を言ってしまった。
社長に問いかけられるまでもなく、私が彼と一緒に居たいのだ。
「…そうか。ありがとう」
今日一番の笑顔を浮かべて、彼は私の肩を抱いた。
これまでの恋人とは、きっといつもこんな風に触れ合ってきたのだろう。
優しく女性をエスコートして、さり気なくフォローしてきたに違いない。
(こんな田舎のホテルに異動させられても、きっと都会へ戻ればいい関係の女性がイッパイいるんだよね…)
参勤交代の大名みたいに、遊び相手と本妻とが存在している。
私がどんなに背伸びをしてもその本妻の立場になれないように、きっと今夜一晩だけの相手をして貰えたら社長としては満足なのだ。