マーメイドはホテル王子に恋をする?!
本当に無事でいて良かった。
水泳を止めた私が大切な命を守れて嬉しい……。


ぎゅっ…とお湯の中で指を折り曲げて伸ばした。
やっと指先の感覚が戻り始め、そろそろ上がろうか…と辺りを見回す。


社長はまだ部屋に戻って来てない。
今頃は警察の事情聴取を受け、事故の再発防止に向けての対策を協議しているのでないか。


彼が帰って来ないうちに部屋を出て行った方がいいだろうか。それとも戻ってくるまで待って、一言お礼を言うべきか。


迷いながらも断然後者だろうと思うが気も重い。
さっきのエレベーターで受けた熱いキスが思い出されて不要なまでに心臓が鳴りだす。


あんなこと社長にとっては日常茶飯事なのにときめいてしまった。
私が抱き締められたまま震えていたのを察知して、安心させようとしたキス。


単純にただそれだけの為だ。
それ以外の思いなんてない筈なのに……。


それをわかっているのに納得できない自分がいる。
あのキスの意味を彼に問い合わせたいと思っている。
意識するのも大概に…と思うけれど、やはりどうしても舞い上がってしまう。


だけど……いい加減にしよう。社長に聞いても迷惑がられるだけだ……。


パシャン…とお湯から出るとバスタオルを体に巻いた。
露天から室内のバスルームへ戻り、髪の毛に残った潮水を洗い落とす。


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