狂愛
いつもの彼は、にこにこと屈託のない笑みを浮かべていて、愛想の良い人物だった。
だが見えない壁でも張っているのか、絶対に自身に踏み込ませない何かがあった。
少しでも彼の領分に足を踏み入れると、今までの優しい態度が嘘のように相手を遮断する。
それは彼を好きだった女たちが諦めた理由の1つでもある。
故に皆、彼を思い続けたければ彼を遠巻きで眺めるしか術はないのだ。
「そんなのっ!…絶対に認めないんだから……ッッッ!!!」
だからこそ納得の出来ない者もいることだろう。
彼と彼女の2人だけの領分に足を踏み入れた者がいた。
その女は一見すると美人の部類に入るのだろうが、今は憎悪だけをもったような悪相を晒している。
「彼は…誰か1人のモノにはならないのよッ!」
“彼はみんなのモノ” という方程式ができていたために、息を殺すようにして彼を眺めていた者がこの状況に憎しみを抱きぶちまけてしまうのも理解できる。