僕らの恋が終わる前に、
「あんちゃん!」
放課後の帰り道、
少し遠くの方から
愛しい声が私の名前を呼ぶ。
「桔平(きっぺい)、後ろ姿でよくわかったね。」
当たり前でしょ、
みたいな顔で彼は笑う。
「あんちゃん、卒業したらどうすんの?」
当たり前のように
私の隣を歩いてくれる彼が好き。
「んー、料理の学校に行こうと思ってる。」
「好きだもんなー、料理。」
昔から、料理が好きで。
というか、
お婆ちゃんの作るご飯が美味しくて、
優しくて、温かい
お婆ちゃんみたいになりたかった。
「桔平は?どうするの?」
「俺は、この街で就職するよ。
バカだから大学とか行けないし。」
ししし、って笑う彼も好き。
私よりもずっと背が高いところも、
優しく髪を撫でてくれる大きな手も、
少し伸びてきた前髪も、
ぜんぶ、ぜんぶ好き。
ねぇ、桔平。
卒業したら離ればなれだよ。
なんて、
言いたくなかった。