最初に熱湯を注いでください
1分 まだまだ硬い
褒められたことじゃないけど、会社より外の方が集中して仕事できる。
家でもいいけれど、あそこはついつい普段やらない窓枠の掃除なんか始めちゃったり、余計な誘惑が多い。
それに周囲がザワザワしている方が集中力は増す。
会社のザワザワはダメ。
あれはその中から自分に関係した案件だとか、気になる噂話なんかをちゃんと耳が拾ってしまうところがよくない。
まあ単純に、別の仕事の話を振られたり、電話が鳴ったりして今やっている仕事を中断させられる、ということもある。
とにかく私は、残業を早めに切り上げて会社が見えるほど近いこのカフェで仕事の続きをすることが多い。
自分でも頭がクルクル回転していることがわかるほどの集中力で。
ここが私のデスクだったらなあ。
でも外に持ち出してできる仕事なんて限られているから無理か。
ノートパソコンのディスプレイを見たままコーヒーカップに手を伸ばし、冷めたコーヒーを一口飲んだところで、思いがけず声を掛けられた。
「すみません!3分だけ、お時間いただけませんか?」
仕事に集中するあまり、防御力、警戒心ともにゼロだった私は、コーヒーカップを戻すこともできずに、目の前の男性をぼーっと見つめた。
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