最初に熱湯を注いでください
2分 ほぐれる


お互いに社会人なので、口頭での挨拶だけでなく名刺も交換した。
どうやら部長さんらしい。
そのタイミングでやってきた店員さんに部長さんと彼はブレンドコーヒーを頼んでから改めて私の名刺を見た。

「スコール事務だとあのビルですね」

「はい。2階がオフィスです」

「失礼ですが、彼とはどうやって知り合ったのですか?」

「え?」

「いえ、ずっと『彼女はいない』と聞いていたし、スコール事務はうちと仕事上の付き合いはないし」

さっき声を掛けられたんだからナンパかな。
だけど上司にそんなことは言えないし、同じ理由で合コンもダメだ。
仕事関係は使えない。
学生時代の知り合いだとしても彼が先輩なのか同い年なのか後輩なのかも判然としない。
もっと、こう、差し障りのない理由・・・

「私が落とした携帯電話を拾ってもらったご縁で」

これならどこの誰と知り合っても不自然じゃないし、好感度も高い。
この間約1秒。
よく思いついたなー、私!

「それはいつ頃?」

え、それ関係ある?
適当に答えたら何か地雷踏んだりするかな?

「えーっと、どのくらい前だったかなー?」

笑顔の中に殺気を込めて隣の彼に飛ばす。
援護!

「半年くらい前ですね。付き合い出したのは本当につい最近です」

部長さんには同意の意味で、彼には了解の意味を込めてコクコクと頷く。

「そういうわけであのお話は聞かなかったことにしてもよろしいでしょうか?」

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