好きですか? いいえ・・・。
夜は消えたくなる。
落合くんがお風呂から上がってきて、それから二人で私の部屋に向かった。
「なあ、財満さん。ここテストに出るかな?」
折り畳み式の小さなテーブルを挟んで、落合くんがシャーペンのフリック部分を下唇に当てて、顔を上げた。
「え? どこ?」
「ここ。」
落合くんの匂いは、私の匂いと同じだ。私の家にあったシャンプーやボディーソープを使っているから、当然のことだけど、同じ匂いがしてくるっていうのは、やっぱり胸をとくんっと打ってしまう。
「あー、これ。これね……。うーん……一応覚えておいた方がいいかもね。この公式、よく使うし。」
「そっか。サンキュー。」
数学の教科書を目を細めて、背中を丸めて、指で文字をなぞりながら覚えていくその姿は、不器用なりに一生懸命な男の子って感じがして、可愛い。洗い髪もまだ乾いてない。ドライヤーがあったのに使わなかったのが、私にはかえってよかった。「水も滴るいい女」なんて言葉があるけど、その逆の「水も滴るいい男」。
そんな男の子、落合くんが今、私の部屋にいる。