好きですか? いいえ・・・。
「にしても、車椅子って大変だよね。腕の力だけで自分の身体を動かすんでしょ?」
「まあ、そうだけど……。」
「だったら、筋トレとかしないとね!」
落合くんは私の目の前で力こぶを作って見せた。ほんの少しだけプクッと膨れていた。
「落合くんはしてるの? 筋トレ。」
「落合くんはしてない。筋トレ。」
どうしてだろう。落合くんの笑った顔を見ていると、なぜか胸がキューイーンッと締め付けられて、少し苦しくて、でもどこか居心地がいい。これが……恋?
いや、違う。この気持ち、あの彼に抱くのと落合くんに抱くのとでは違う。
「なんで自分のこと、『落合くん』なんて言ったの?」
「なんでだろう……。」落合くんは首を傾げた。
「自分の名前を例えば、下の名前で『拓夢』とか『十志子』って言ってたら気持ち悪いけど、苗字ならなんかユーモアがない?」
「落合くん、ユーモアってどういう意味か知ってる?」
「落合くん、ユーモアってどういう意味か知らない。」
また笑った。笑ってくれた。その顔を見ていると、私も「もらい笑い」してしまった。
そうか……事故に遭ってから一度も私だけに向けられた笑顔がなかったからなんだ。笑顔ロスのところに、引きつっていない、純粋な笑顔が舞い込んできた。だからこんな気持ちになるんだ。口角が下がったままだといつまで経ってもポジティブになんかなれない。