好きですか? いいえ・・・。
すき焼きのいい匂いが漂ってきた。グーッとお腹が鳴った。食欲があるっていうことは……。そう思って、体温計を脇に差した。36.7℃。
「熱……下がってた……。」
熱が下がっているということを数値が示している。その数値を見ていると、ああ私は大丈夫なんだ、元気なんだという気持ちになってくる。病は気からっていうけど、本当らしい。
車椅子に乗り移って、リビングに出た。ちょうどカセットコンロの上にすき焼き鍋が運ばれてくるところだった。
「あら、おかゆを取りに来たの?」
「熱下がってたから、私もすき焼き食べようかなって。」
「へえー、計ったの。」
お母さんがすき焼き鍋の蓋を開けた。
「『計ったの。』ってことは、まさかお母さん、私の額に手を当てた時には熱が下がってたってこと知ってたの!?」
「まあね。お肉の競争率が減っていいかなって思って黙ってた。」
「もう、ずるーい!」
「冗談よ。ほら、早く席に着きなさい。」
私がいつも座っているところには、私のご飯と溶き卵がすでに用意されていた。隣では落合くんが箸で卵を溶いている。
「もう大丈夫なのか?」
「大丈夫! だいぶ覚えたよ!」
「そうじゃなくて、体調の方。」
「ああ、そっちね。」私は牛肉を一つ、箸で掴んで溶き卵に潜らせた。
「本当に大丈夫かどうかは食欲で判断してくださいな!」