好きですか? いいえ・・・。





「ああ、やっぱり弾くんだな、ギター。」



そう言って、川上くんは私のところにツカツカと歩み寄ってきた。あ、歩み寄って来たのだ。



川上くんから話しかけられたのは初めてだった。もちろん、私の方からは話しかけられない。



いつもは、体育館でライブする姿を遠くで見ているだけだった。それが今は、教室で大好きな人と二人っきり。二人だけの世界が生まれている。



「あ、うん。最近。そう。」



言葉になっていない返し。頭の中では何度も川上くんから話しかけられた時、どういう返しをするか、妄想予習していたのに、いざその時が来ると、まったく役に立たない。



胸が苦しい。額がじんわりと汗をかく。ポケットから取り出して拭いたハンカチを見て、ヒヨコ柄の子供っぽいハンカチを使ってることに恥ずかしくて、汗が止まらない。苦しい。熱い。苦しい……。




< 176 / 204 >

この作品をシェア

pagetop