好きですか? いいえ・・・。





「財満さんが教室に帰って来た時、ギターケースも一緒にあったから、ギター弾くんだろうなとは思ってたけど、最近始めたんだ。」



「うん。最近……。」



名前を呼ばれると尚一層胸がときめく。無意識なのだろうか、川上くん。大好きな人に名前を呼ばれることがどれほどキュン死にさせるのか、彼は知っているのだろうか。知っていてそうやっているなら、罪だし、知らないでやっているのもそれはそれで罪。川上くんは罪な男だ。



「事故に遭ってから?」



「事故に遭ってからちょっと経ってからかな。」



「へえー。すごいのな。」



川上くんが私の車椅子の傍にあった椅子に腰かけた。



「すごい……かな?」



「すごいよ。歩けなくなったっていうのに、ギターやろうなんてさ。もし、オレが歩けなくなったら、ギターなんてやらないと思う。」



「そんな!」思わず大きめの声を出してしまった。



「そんな……。川上くんはギターした方がいいよ。歌も。上手いじゃん。」



「オレがギターしてるって知ってるの?」



「知ってるよ。スナノのライブ、よく観に行ってたもん。」



「そうなんだ、ごめん。ちっとも知らなかった。」



そうか。やっぱり川上くんには私なんて見えていなかったんだ。でも、そんな過去はどうでもいい。今、川上くんは私を見てくれている。こんな私に話しかけてくれている。その今さえあれば、過去なんてどうでもいい。




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