好きですか? いいえ・・・。
玄関のドアを開けると、朝陽が射し込んできて、眩しかった。次に見た光景は、ギターケースを担いで欠伸をしている落合くんだった。
「……ごめん、来ちゃった!」
「『来ちゃった!』じゃないよ! 早いよ、落合くん!」
落合くんは私に軽く右手を挙げて、それから慌てたように頭を下げた。振り返ると、そこにはニヤニヤ顔のお母さんがひょいっと顔を出していた。
「キミが、船長さん?」
「はい!?」
落合くんは何が何だかわからないと言った風に、首を傾げた。
「いつも十志子がお世話になってまーす!」
「あ、いえ、そんないつもなんて……昨日からですから……。」
落合くんはまた頭を下げた。すごく緊張しているみたいで、この反応、新鮮で面白い。
「ほら、十志子。船長さんが待ってるから。早く。」
私はお母さんに背中を押され、車椅子を漕ぎだした。その私の耳元でお母さんが小さな声で言った。
「なかなかいい男じゃない。いい? 逃がしちゃダメ。早くモノにするのよ? 十志子がいらないなら、お母さんが奪っちゃうよー?」
「ちょっ!」
まったく、朝から心臓に悪いことを言う。そんなこと言われたら、嫌でも意識してしまう。
落合くんはお母さんに二度頭を下げて、車椅子を押した。