好きですか? いいえ・・・。
人は誰しも出来ないことの一つはある。
保健室で個別授業を受ける毎日には、慣れた。元々、勉強があんまり得意じゃなかった私だけど、こうして先生と一対一で授業を受けることによって、わかることが増えていった。
でも、いくら勉強ができるようになったからと言って、嬉しいわけじゃない。
私はやっぱりあの教室に戻りたい。あの教室で、放課後の部活に備えるために寝ていたことが懐かしい。先生に教科書で頭をパシッと叩かれて、笑っていた頃が懐かしい。あの楽しかった日々、楽しかった教室は今も階段を登れば待っている。でも、そこへ行くには、私にとっては過酷だ。
「それじゃあ、教科書23ページ開いて。」
教科書を開いて、ノートも開く。シャーペンをフリックして、対面に座っている先生を見た。口の周りが髭で青くなっていた。
そういえば、これくらい近くで先生の顔見ることってあんまりないなあ。
「ん? 授業やるぞ?」
「は、はい。」
私は教科書に目を向けた。先生が教科書を読んでいくところで、重要そうなところを蛍光マーカーで線を引く。黒い文字が瞬く間に明るい黄色に染まっていく。結局、教科書に書いてあることってどれも大事なことで、無駄なことなんて書いてないんじゃないかと思う。
「じゃあ、次のページ。」
また同じように先生が教科書を読んでいくところに、蛍光マーカーで線を引く。黄色い線で目がチカチカする。開いた窓から入ってくる風が心地良くて、欠伸を噛み殺す。でも、欠伸が出ると、睡魔はどんどんやってきて、飽和状態。
眠い。私は眠い。
首が上下に少しずつ動いていく。まるでビートでも刻むかのように。友達の興味の無い恋愛話に相槌を打つ時のように。ゆっくり、ゆっくり……。
「こらっ! 何してるんだ!」
急に声がして、慌てて目を見開いた。しまった! 寝てしまった!
しかし、恐る恐る顔を上げると、先生は私の奥。保健室のドアの方を向いていた。振り返ってみた。
「すんませーん。ちょっと気分悪いんで休ませてもらっていいっすか?」
なんと落合くんだった。